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≪目次≫
はじめに
第一章
音楽と感動

二〇〇三年の第九の奇跡〜全体を巻き込む「ゾーン」
一万人の第九〜本質を語る瞬間を見極める
音楽と感動〜既成の型を破るダイナミズムと感動する力
第二章
佐渡流コミュニケーションとはなにか
マエストロへの道程
バーンスタインという存在
佐渡流〜ムズムズする自分に正直に
第三章
第三章 指揮者という職業
人を動かす
如何にして人を信じるか〜セルフ・コンセプトを超えて
指揮の面白さ
第四章
感じて動く〜佐渡裕の未来
夢・ベルリンフィル
神戸
指揮者としての引き際
あとがき
 
≪はじめに≫
 佐渡裕氏との始めての出会いは2003年初夏、神楽坂のある寿司屋だ。クリスタルアーツの社長、佐野光徳氏とともに3人で飲んで食べて語った。まずは興味の共通項があまりにはっきりしていて驚いたことを今でも強く覚えている。心、人、そして食。佐渡氏は食べるのにこだわりがある。食文化を重んじる日本とフランスに暮らすのも頷けるほどだ。食について語りだした佐渡氏は止まらない。しかし、人とは何?心とは何?そして感動とは何?というこの結論のない会話のネタを寿司屋で最高の寿司ネタ以上に堪能したことがあまりに印象的だった。この衝撃的な出会いで得た共感に追い討ちをかけて、佐渡氏との共通事項が明らかになり、わたしを本書の企画・出版へと自ら感じ動いていったのだ。佐渡氏はわたしと同い年だ。1961年生まれ。京都の太秦で育った佐渡氏だが、わたしの母の実家が太秦だったのでわたしの幼少の頃、夏休みや春休みは必ずと言ってよいほど太秦でときを過ごしていた。京都弁が懐かしい・・・。嵐電の駅ですれ違っていたかもしれない。現在、神戸の御影に暮らす佐渡氏だが、わたしは小学生の頃はその近くの苦楽園というところで暮らし、御影で学生時代を過ごした家内と不思議にも結婚した。また佐渡氏もそうらしいのだが、わたしの母も極めてポジティブ・シンキングの持ち主で今のわたしの行き方にとても影響を与えているのも似ている。さて、佐渡氏との共通点としてわたしにもっとも響いているのは、2人とも自分自身はプレイする人間ではないということ。もちろん、佐渡氏は楽器、わたしはバスケットボールをプレイしてきたが、プロとして生きている部分はそこではない。スポーツドクターとして多くのスポーツ選手やチームのパフォーマンス向上をサポートする仕事をスポーツ心理学をバックに行っているが、わたし自身は決してプレイしない。チームの能力を最大限に引き出し、満足に行くプレイを演出し、そこにいるプレイヤーたちはもちろん観に来ているたくさんの方々にも感動を創出する仕事だ。それは佐渡氏の指揮者という職業に通じるものがある。これらの共通項目から、自称スポーツ版マエストロと自分を呼びたくなるほどに、佐渡氏の生き方が魅力的にわたしの魂を揺さぶったのだ。さらには根底に流れる、彼の音楽・クラッシックに対する思いとわたしのスポーツへの考えがこれまたシンクロしていて気持ち悪いほどだったのだ。クラッシックは、退屈、眠い、つまらない、わからないなどのネガティブ・ワードのレッテルが貼られる傾向にある。しかし、自分の日常にはないくせに、どこか傍にあることでかっこよさを感じさせたりないわけにはいかない存在でもある。そして、する・プレイするのは難しいが、観たり・聴いたりする魅力が文化となって存在している。行ったら寝てしまうくせに、彼女をモーツアルトの生誕250周年のコンサートに誘ったりするのだ。スポーツはどうだろうか?スポーツはしんどい、つらい、汚い、脳みそ筋肉みたいな・・・。まったく同じような境遇を人間社会から与えられてはいないか?ボールなんて触ったり体育が大嫌いだったのに、ドイツまで彼氏とサッカー観戦にいったりする。そんなクラッシック音楽やスポーツをもっと、身近な楽しい感動あるものにしたいという内側から湧き出る熱望で、さまざまな活動を行い続けている佐渡氏の姿にわたしの姿を自ら重ね合わせてしまったのだ。この共通・共感から何かが生まれるに違いないと確信した。そして、このシンクロニシティーを多くの方々にメッセージしたいという衝動に駆られ本書が誕生したというわけだ。最も佐渡氏から私が多くの方々に伝えたいこと、それは「感動」すなわち感じて動くというスポーツや音楽を超えた人間の普遍的美の原点に他ならない。本書を通して新ためて“感動”を感じていただけるものと確信している。
   
≪あとがき≫
  出会いから約半年後の2004年の正月、パリから帰国中の佐渡氏を捕まえて対談は実現した。それは、神戸のとあるホテルの1室および神戸三宮の街にあるカフェなどで、約3日間にわたり夜通し行われた。熱く自分の思いついたことを衝動的に語ったり、一方1つ1つの言葉を吟味しながら自分の考えを整理していくように話していくマエストロがわたしのすぐ目の前にいた。大阪城ホールのあの感動を1人締めしているような興奮の中、佐渡氏の持つ生き方や考え方を少しでも多くの方々に伝えたいという気持ちが止め処もなくわたしに沸き起こってきた。そして、そんな感動をただ伝えるだけではなく、この書籍を読んでいただいた多くの方々が自分の生活や人生にも感動を自ら演出できるようになるためのヒントとなるような書籍を作るということを心から願ったのである。昨今、人を動かすためのテクニカル・スキルとしてのコーチングがもてはやされているが、人を動かすほんとうの本質こそ、この目の前にいる21世紀日本国の財産の1人、指揮者佐渡裕の中にあるのではないかと感じたのである。そう、すべての人に感動を創りだす天才、佐渡裕氏の言葉1つ1つが、実は人を感じて動かすための普遍的原理なのではないかと。
 彼から送り出された言葉という宝石の数々、わたしにとってとても印象的なものを敢えてここで紹介したい。そもそも言葉をとても大事にしていることがわたしとの共通点でもある。このことはわたしをさらに佐渡ワールドへと引き込んでいった理由だ。わたしはスポーツドクターとして、スポーツの社会的・文化的価値の創造をミッションに生きているが、そのミッションを実現するためにもスポーツの価値という概念を言葉にすることで理念としてわかりやすくメッセージしたいと常日頃から思っている。スポーツの価値を言語化した「スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)」は23万冊といまだに売れている。すなわち、「スポーツは医療であり、芸術であり、コミュニケーションであり、教育である」「スポーツで人と社会を元気・感動・仲間・成長」と言葉にした。音楽もスポーツも肌で感じ、魂で訴え、肉体で表現する。しかし、人間社会の中で人間同士が音楽やスポーツを創造しコミュニケートしていくには言葉が大事なのだ。まず、彼の印象的言葉の1つは「チャレンジ」。人がどんなことに心から感じるのかという普遍の法則の1つこそ、チャレンジへの喜びだ。佐渡氏は常にどんなときもその場所にとどまることをよしとしない。変化を求め続けているように感じるが、それこそが自分の感動であり、相手や周りの人たちの感動を生み出すのだということを本能的に知っているのだろう。チャレンジは常にリスクや恐怖・不安を伴う。その場にいるほうが一見居心地がいいのだ。しかし、勇気を持って、今という瞬間をブレイクしていく。実はそのことに人は喜びを感じるのだということを、身をもって私たちに示しているのではないだろうか?しかし、一方で佐渡氏のこんな言葉もわたしの心の中には宝石として投げ込まれ、そして今でも輝き続けている。無謀なチャレンジは感動を生まない、地道な知識やスキル獲得がなければ、チャレンジの向こうにある自由もやってこないのだと!ベートーベンの第九についても人一倍、勉強し知識や見聞がある、だからこそ佐渡オリジナルの新しい第九も創出できるのだし、自分自身の指揮や演奏家たちの演奏技術の向上にもきびしい。根性や遵守の向こうに、自由がやってくるのだということこそ、佐渡氏との対談の中で私がもっとも学び、今現在も仕事や生活の中で活かしていることだ。根性や遵守などという言葉とは一見程遠い芸術の都パリで暮らすマエストロ佐渡裕がわたしに残してくれた宝物だ。
 本書すべてがマイストロ、佐渡裕が奏でる感動と思っていただいて間違いない。お読みいただいたあなた自身にとって宝物になる言葉やフレーズが必ずあるはずだ。そして、その瞬間から、感じて動く日々があなたに約束されることを願ってあとがきを終えたい。本書の作成に尽力いただいたポプラ社の山科○○様、吉川○○様、ライターの○○様に心より深謝したい。また本書作成のきっかけと佐渡氏との交流の橋渡しを快くしてくださりいつもお世話になっている株)クリスタルアーツの佐野光徳社長、奥様の晶子様、本庄朝子マネージャーに新ためて感謝の気持ちを伝えたいと思う。
Thank You Very Much Indeed!
2006年秋
スポーツドクター辻秀一